
mama知っ得!情報
育児に正解はないとわかっていても、いざ自分の子どもを育てるとなると「正しい育児」が気になってしまうもの。SNSや育児本の情報を頻繁にチェックしては「あれもしなきゃ」「これもしなきゃ」と自分を追い詰めていませんか? そんな方にぜひ知ってほしいのが「ゆる育児」という考え方。完璧なママ・パパになろうとせず、肩の力を抜いて育児を楽しもうとするスタイルのことで、近年の子育てのトレンドとして注目されています。
では、育児をゆるめることで子どもや親にどんな変化がもたらされるのでしょうか。『親も子もラクになる ゆるめる子育て』(明日香出版社)の著者でライフスキルコーチのミスターおかっちさんに解説していただきました。
子どもが言うことを聞いてくれない、自分の育児が正しいのか不安になる…。そんな理由でイライラしてつい子どもにあたってしまい、親としての自信をなくしてしまう。僕のところにはこのような相談が数多く寄せられます。
それはきっと、みなさんが自分の子どもに幸せになってほしいと思っているからですよね。そのために努力しているのに、うまくいかない。でも、ちょっと考えてみてください。あなたが思い描く「理想の子育て」の根拠は何でしょうか? 自分の親から教えてもらったこと? インフルエンサーがSNSで発信していた情報? 子育て本に書いてあったこと?
世の中には子育てに関する情報があふれているし、おそらくその多くが有益な情報でしょう。けれども、すべてを実践することは時間的・体力的・金銭的に不可能です。できるはずがないのにやろうとして壁にぶち当たり、自分を責めてしまう。そうした「足し算の子育て」に疲れた人たちが、「引き算の子育て」を始めているのではないでしょうか。
誤解がないように言っておくと、いわゆる「ゆる育児」とは、決して“手抜きの育児”ではありません。育児にまつわるさまざまな情報を「それって本当に子どもの幸せに必要なことだっけ?」という観点で精査する。そのようにして本当に大切なものだけにフォーカスする考え方なのです。
ゆる育児にはさまざまなメリットがありますが、中でも僕がより重要だと考える3つの利点をご紹介します。
◎ママ・パパが楽になる
「足し算の子育て」では、「午前中の1時間は子どもに日光浴をさせないといけない」「午後は1時間お昼寝をさせないといけない」「子育て支援センターへ行ってほかの子どもと交流させないといけない」などと、ToDoリストを考えているうちに1日のスケジュールがパンパンになり、親の余白がなくなってしまいます。
余白がなくなることでイライラしやすくなり、つい子どもにあたってしまう。子育ては親の心に余裕がないとうまくいかないものです。だからこそ、まずは「◯◯しないといけない」という予定を少しずつ手放していく。そうすることで子育てに向き合いやすくなるだけでなく、単純に自分自身が楽になるはずです。
◎親子関係がよくなる
とりわけ子どもが幼い場合、親が子どもにやってほしいことと、子どもがやりたいことはなかなか合致しません。子どもが外で虫を追いかけているのに「そっちに行ったらダメ」と制止したり、子どもがおもちゃで遊んでいるのに「絵本を読もうか」と別の提案をしたりすると、子どもは自分のやりたいことを邪魔されたと感じて反発し、親子関係がギクシャクしてしまうことがあります。
でも、そこで子どもに好きなだけ虫を追いかけさせてあげたり、おもちゃで遊ばせてあげたりすればどうなるでしょうか。子どもが熱中していることを通じて会話が生まれ、よりよい親子関係を築くことができます。子どもは親と一緒にいるときに、つねに安心を感じるようになります。
◎子どもの非認知能力が養われる
子どもが安心できる親子関係を築くことができれば、子どもの自己肯定感や、失敗してもやり抜く力──いわゆるレジリエンスが高まります。そう、自己肯定感やレジリエンスといえば、近年“生き抜く力”として子育て業界で脚光を浴びている「非認知能力」の代表的なスキルです。ゆる育児は、非認知能力の育成に欠かせない考え方なのです。
ゆる育児に「こうしなければならない」という決まったスタイルはありませんが、前述のメリットを最大限に享受するにはいくつかコツがあります。
●子どもと一緒になって楽しむ
子どもが夢中で楽しんでいることを、一緒になって楽しんであげてください。親が心から楽しんでいると、それが子どもに伝わります。たとえば、子どもが虫を追いかけているのを楽しんで見ていれば、子どもは「僕が虫さんを追いかけてるのをママもうれしそうに見てる」と感じてうれしくなり、ますますやりたいことにのめり込むようになります。
●「本当に大切なものは何か」を自問する
僕は個人的に「子どもの幸せにとってもっとも重要なのは、よりよい親子関係を築くこと」だと考えています。「子どもが早く字を読めるようにしてあげたい」「英会話を身につけてあげたい」など、みなさんがお子さんのために考えていることはたくさんあると思いますが、果たしてそれらは「よりよい親子関係を築くこと」以上に大切なことでしょうか?
もちろん「大切なこと」は人によって違うでしょうから、まずは自問して、自分なりの答えを見つけましょう。そして、そのために限られた時間と体力を使ってあげてください。本当に大切なものを守るためには、ほかのものをあきらめないといけないこともある。そんな考えを持っておくのも、育児をゆるめるコツのひとつだと思います。
●気持ちには「Yes」、行動には「Yes or No」
もっと本を読んでほしい、もっと遊びたい、抱っこしてほしい…。子どもの要求や甘えにすべて応えてあげるのも、ゆる育児ならではのスタイルかもしれません。子どもの甘えは、親への愛情確認のサイン。応えてあげることで自己肯定感が高まります。
とはいえ、忙しくてどうしても子どもの甘えに応えられないときもありますよね。そこで僕が提唱しているのは「気持ちには『Yes』、行動には『Yes or No』」という考え方。手が離せないときに、子どもが「絵本を読んで」と言ってきたからといって「あとでね」と軽くあしらうのではなく、子どもの「◯◯してほしい」という気持ちには「Yes」で応えてあげる。
具体的には「おもしろそうな本だね」などと伝え、子どもの「本を読んでほしい」という気持ちを肯定してあげつつ、実際に要求に応えるかどうかは「No」であってもいい。手が離せないときは「おもしろそうな本だけど、いまお料理しているから終わってからでいいかな?」と断ってもいいのです。
●人の手はどんどん借りる
困ったときに頼れる存在は、ゆる育児の心強い味方。パートナーや家族、友人といった近しい人たちから、ファミリーサポートなどの外部機関まで、依存先をたくさんつくっておけば、気持ちがぐっと楽になります。「人に迷惑をかけてはいけない」なんて考えは払拭して、どんどん手を借りるようにしましょう。
ここまでの話をまとめると、子どものために「あれもこれも」と考えるのではなく、優先順位を決めて、本当に大切なもの以外はある程度切り捨てること。それによって生まれた心の余白を持って子どもに向き合い、子どもの自己肯定感を高めてあげること。それが僕の考える「ゆる育児」です。
もっとシンプルに「いま目の前にいる子どもとの時間を楽しむこと」と言ってもいいかもしれません。10年も20年も先の子どもの将来を考えて不安になるのではなく、今日子どもと公園に行ってどう楽しむかに意識を向ける。それは、子どもだけでなくママ・パパが自分の人生をどう楽しむかということでもあります。
子どもは親が考える以上に親の行動や生き方を見ているもの。親が豊かに、そして自由に生きていれば、子どもにも自然といい影響を与えるし、子どもに対する姿勢も柔らかくなっていきます。
人からどう見られるかは気にせずに、自分と自分の子どもに合った子育てを模索する──というより、子どもと一緒につくっていく。いきなり正解を見つけようとするのではなく、子どもの成長や親の状況に合わせて微調整していけばいいし、最終的に楽しければ何でもOK! それくらいの気持ちで、お子さんとの限りある時間を楽しみ尽くしてください。


ミスターおかっち(岡崎大輔)/ライフスキルコーチ/SNS総フォロワー数22万人
同志社大学法学部を卒業後、外資系製薬会社に勤務。うつ病の薬の情報提供をする中で「うつ病をなくすためには社会に出るまでのライフスキル教育が大切」と考えるようになり、30歳でマサチューセッツ州スプリングフィールド大学アスレチックカウンセリング学科修士課程に留学。ライフスキル教育を軸にしたコーチングを学び、教育学修士号を取得。2014年に和歌山県でライフスキルの学校「PETERSOX」を立ち上げ、子ども向けのライフスキル教育を提供しているほか、大人向けにはコーチングセッション、講演会、ラジオ番組(Voicy)を通して、本来の自分を発揮できる生き方や子どもとの関わり方を実践するための支援をしている。著書に『親も子もラクになる ゆるめる子育て』(明日香出版社)などがある。
https://petersox.com/